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『人生を変えた1枚』   #178 【南佳孝/サウス・オブ・ザ・ボーダー 】

『人生を変えた1枚』   #178 【南佳孝/サウス・オブ・ザ・ボーダー 】_e0105937_137211.jpg#178 【南佳孝/サウス・オブ・ザ・ボーダー 】
前回、年末の南さんのコンサートのレポートをしておきながら、肝心の紹介はクワトロロコスでご本人ではないことに違和感を感じられた方もいるだろう。当のわたしも違和感があった。というわけでやはり南さんのアルバムを紹介しよう。

ただLIVEのときご本人もおっしゃられていたが今年は曲は書いていたがアルバムは発表していない。たまたまそういう年だった。と。で、それならば今回紹介は、今回のLIVEでも印象的だった「プールサイド」を含む「サウス・オブ・ザ・ボーダー」にしよう。

まあ、ともかくこのアルバムはわたしにとって感慨深い。

もしこのアルバムを聴いていなかったなら今の人生は存在しないというか、かなり違っていたような気もするし、あるいは経済的にはそれほど変わっていなかった。ような気がする。ただ人生の満足度という点では月とスッポンぐらいの違いがあっただろう。

まずこのアルバムを聴いていなかったら小説は書いていなかった。それは間違いない。そんな発想すらなかっただろう。本もたいして読まなかっただろう。浅くて猥雑で単純な人生を送っただろう。そんな気がする。

で、そんな人生も別に不幸ではなかった気がするが。でもやっぱりわたしの心の奥底には、このアルバムを聴いたことに対する勲章のような気持ちがあることは確かだ。

たとえばスーパー大企業のエリート社員にもなれなかったり、あるいは起業して大金持ちとかにはなれなかったかもしれないが、「僕はこのアルバムを聴いている!」。それだけでも他人に対して優越感がずっとあったことも事実。

今だにそう。知らない人は本当にかわいそうな人生だと実は密かに同情していたものだ。そんな気持ちを抱かせるほど、そう、それほどこのアルバムはあまりに素晴らしいのである。

まず池田満寿夫氏のジャケットが素晴らしい。このジャケットで、その後熱心な池田ファンとなった。もともとアートは好きだったし、小学生時代はほとんどの図画大会に入賞していたので先生たちも将来を期待していたほどだ。ただ自分では才能がないことはわかっていた。第一そんなもので世の中食ってはいけないだろうと子供心にもわかっていた。

で、アルバムだが。とにかく楽曲の素晴らしさ、アレンジの秀逸さが心を射抜いた。もうかれこれ32年前に聴いたのが最初だが、いまだその感動は色あせない。時空を超えてこの心地よい空間に引き込む力は凄い。ほのぼのとしたテンポでPOPな「夏の女優」で幕を開ける。この曲はリゾート感覚という言葉では置き換えられないなんともいえないペーソスに溢れている素敵な歌詞とメロディ。これぞ南佳孝といえるべく彼のレイドバックした個性がよく出ているこの時代の名刺がわりの一発といえる。

続く「プールサイド」!ギャルル!である。
このアレンジの素晴らしさ、ムードはとても言葉ではとても賞賛しきれない。
いいです。このサウンド。メロディ、節回し。とにかくこのアルバムの曲は、すべてこのアレンジがすべて。違うアレンジは考えられないほど完璧だ。詞もサウンドもメロディも歌唱もパーフェクトな奇跡の世界が広がっている。

さらに「日付変更線」「夜間飛行」も圧倒的に心地よいボサノバサウンドで言葉を失う。なぜこれほど気持ちよく心地いいのだろう。尋常じゃやない。この頃(20歳ころ)から現在まで、たぶん500枚以上のボサノバのアルバムを聴いていると思うが、個人的にはこのアルバム以上の心地よいボサノバアルバムは聴いたことがないというのが率直、正直な感想である。

もちろん、日本人が作ったアルバムなので擬似的ボサノバであるのだが、それにしてもこの時代によくこれほど心地よい芳醇なサウンドを作ったものだといまだ驚異である。その才能には愕然とする。アレンジは坂本龍一氏なので、わたしはこのアルバムから教授の大ファンになったのである。

まあとにかくアレンジがお洒落。彼のアレンジで他に好きなのは大貫妙子の「色彩都市」とアルバムなら矢野顕子の「峠の我が家」。「そこのアイロンに告ぐ」「デビット」「海と少年」など、ほんとかっこいい。当時のJAZZやROCKの新作の数倍上をいっているクオリティの高さはものすごくて、あの頃は洋楽を完全にバカにしていたものだ。

で、アルバムに戻る。
前出の楽曲はあまりに完成度が高くいまさら話すこともないが、たとえば「朝焼けにダンス 」のほのぼのラテン、カンツォーネのようでもありタンゴのような「 ワンナイト・ヒーロー 」「ブルー・メロディー」の斬新な心地よさや、もはやジャンル分け不可能な不思議な世界「スフィンクスの夢」など奥が深くて、とても当時主流のROCK・POPSの邦楽アーティストとは一線を画していた孤高の世界である。

それにしても「プールサイド」の詞世界にははまった。これまた来生えつ子氏はこの時点でもっとも好きな作家であった。しかし。この歌詞にこのメロディでこの歌唱ですよ。

凄いわ~。ため息しか出てこない。
「こんないい目にあえるんだから、人生、生まれてきてよかった」。聴いている最中そんなことを思える曲ってそうはないはずだ。だが彼のアルバムを聴いているといつもそう思わせてくれるのだ。だからわたしは彼が1番好きなアーティストなのである。
by mizuki1957 | 2009-12-30 13:07 | POPS


青春時代に夢中になった思い出の隠れた名盤、老後の楽しみ用の名盤を独自の感性でご紹介致します。


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